2014年8月28日木曜日

「最高」が重なりすぎると焦点がぼける?ー「フィエラブラス」を見て。

 今日は昼間は休養し、夜にシューベルトのオペラ(!)「フィエラブラス」を見て来ました。
 
 配役が今の声楽界で考えられる最高の人たちばかりで、いったいどんな演奏になるかワクワクしていました。ちょっと例をあげると、フランク国王はツェッペンフェルト、その娘エンマはユリア・クライター、ムーア人の国王の娘フロリンダがレッシュマン、それにフロリンダの恋人が、あのマルクス・ヴェルバ(!)、そしてあまり出番はないタイトルロールはミヒャエル・シャーデでした。

 あと騎士エギンハルト役がBenjamin Bernheim(名前からするとドイツ人にも英米人にも思われますが、フランスの出身とのことです。名前の読み方がわかりません。教えていただければ幸いです。)という顔ぶれで、脇役もメゾのシャピュイなどけっこう有名人揃いでした。初めて聴いたこのBernheimは相当の実力者のようでこのオペラのヒーローに近い役でした。

 ストーリーはかなり複雑で私も結局何がなんだかわからないところがありました。この日記の最後にストーリーの概要を記したページのURLを書いておきます。一言でいうと、キリスト教徒がイスラム教徒と戦争を重ねるが、カール王およびイスラムの国王の息子フィエラブラスのおかげで和解し、お互いに幸せになる、その際例によって例のごとくふたつのカップルが結ばれるというお話です。(ついでに書いておくと、キリスト教徒はイスラム教徒をキリスト教に改宗させることに成功するというあり得ない設定です。)

 シューベルトのこのオペラは、1980年代にクラウディオ・アバドが上演して日の目を見たらしいです。私もその画像と音声をYouTubeで発見し、この作品を実際に見る決心をしました。

 話の筋は複雑で、舞台が次々に変わるのですが、その間幕が降りて、かなり待たされました。舞台作りが相当大変そうでした。

 さて、感想ですが、まず私はこの作品をまとめあげたインゴ・メッツマッハに喝采をおくりたいです。ブラヴォー!ウィーンフィルの演奏も最高でした。それと、合唱が強力でした。その辺が昨日の「ラ・ファヴォリート」と一線を画しているところでした。

 個々の歌手について感想を述べる時間がないので簡単に書きますと、ひとつひとつのシーンが実に丁寧に作られ、歌も演技も「これこそが最高!」と思うものばかり。

 クライターの細めの清らかな声(ただ、時々硬くなりましたが)と父である国王(ツェッペンフェルト)の豊かで深い声の重なり合いも美しく、また、Bernheimの演じる騎士エギンハルトははっきり言ってタイトルロールのシャーデより良い声でした。シャーデはオペラよりリートのほうがずっと良いと思います。

 特筆に値するのは、ドロテア・レシュマンによるムーア人国王の娘(=フィエラブラスの妹)が劇的な歌唱と台詞で圧倒したこと。この人の声は強いのですがあまりキンキン硬くならないので私にも耐えられます。(私は強い声、キンキンする声は嫌いなのです。)そして、彼女の恋人ローラントを演じたヴェルバは昨年「マイスタジンガー」でベックメッサーを、一昨年「魔笛」でパパゲーノを演じた、私のお気に入りののバリトンです。今回はかっこいい役で大満足。

 書いていたらきりがないのでこの辺にしますが、最後は大団円。しかし、全体の印象というと何かはっきりしないのです。

 演劇としても音楽としてもちょっとバラバラというか、モーツアルトのオペラのような有機的つながりが感じられませんでした。それぞれのシーンはすばらしいのですが、音楽的に通奏低音になるようなテーマとか繰り返し形を変えながら出て来るモティーフがあまりないのです。

 台詞もモーツアルトなら、ドン・ジョヴァンニの台詞の多くを後で逆にレポレロが繰り返していて、ドン・ジョヴァンニとレポレロの親近性(同じ人の裏と表だという説もあります。)を感じるのですが、そういう関連性を感じませんでした。

 だから、作品としてはまずテーマがとんでもない(イスラム教徒と大団円だなんてあり得ないでしょう?)のと、全体の統一性が乏しいことからなかなか演奏されなかったのではないでしょうか?音楽的にはどのシーンも美しく、まさかシューベルトがと思うほどの劇的シーンもありました。(「魔王」のような劇的なシーン。) 

 これほど多くの最高の歌手と最高のオケと指揮者が共演(競演?)すると、意外なことに全体の印象がぼやけてしまいます。
 ひとつひとつのシーンが完成されすぎてかえって全体がぼんやりしていまうのです。タイトルロールのフィエラブラスも1幕で歌った後は最後まで出て来ませんし、場面が変わるごとに話の糸を繋いでゆくのが困難でした。

 贅沢な感想を述べさせてもらうと、「最高」が重なりすぎ、それに作品の構築性の不足が加わり、何となく焦点ぼけしたような印象があります。

 でも、どれほどひとつひとつのシーンがすばらしかったかはとても語り尽くせません。すでにmedici.tvのアーカイブにあがっていますから、どうぞご自分でご覧になってください。

 あー、楽しかった!
 
(参考)
schubertiade.info/2sakuhin/oper.html