2009年11月22日日曜日

ブロムシュテットのホスピタリティー

さきほど、ザ・シンフォニーホール(大阪)で行われた、ブロムシュテット指揮、チェコフィルハーモニーの演奏会から帰ってきました。

プログラムはドヴォルジャック、交響曲第9番、「新世界から」とブラームス、交響曲第一番というかなりヘビーなものでした。

チェコフィルのコンサートの日程をみると、11月20日東京公演に始まり、岩国とか千葉県松戸市などの地方を巡り、28日名古屋公演まで休みは24日たった一日です。

すごいタフなスケジュールです。

オケのメンバーは、観光を楽しむ時間などないでしょうね。

そんなにタイトなスケジュールなのに、ブロムシュテットは元気で「若く」、とても驚きました。

82歳なのにカクシャクとして、身のこなしも軽やか、足取りもしっかりしていました。

私はオーケストラの世界には疎くて(今もなお疎いです)、いろんな作品を聴いたり、同曲異演を聴き比べるということをほとんどやったことがありません。

その中でブロムシュテットは例外で、30年ぐらい前によく聴いたものでした。

私は大学院生時代、附属図書館でアルバイトをしていました。(時給500円!)、窓口業務のほか、返却された本を閉架式の書庫に戻すという仕事があり、その時地下の書庫でブロムシュテットの演奏を大音響でかけて流していたことを覚えています。

私の世代ではオケものといえばベーム、カラヤンなどを聴いて来た人が多いと思います。

しかし私の場合意外にもブロムシュテットを聴いて育ちました。だからシュターツカペレ・ドレスデンの音は私の中では「デフォルトの響き」なのです。ブロムシュテットのブラームスの第四番などは、私の脳みそに擦りこまれています。

それゆえか、今30年ぶりにブロムシュテットを聴くとある種の「懐かしさ」と「アット・ホームさ」を感じました。

本日座っていたのは正面一階前から5番目の中央でした。

その席からは指揮者の表情もよく見ることができましたし、コンマスの指使いもしっかり盗むことができました。

演奏は、ブラームスの終楽章などもう生命の賛歌という感じまで盛り上がりました。
指揮者が82歳とは信じられない演奏会でした。

誰もが第四楽章の「ソドーシドラーソ~」を待っているとすれば、私は第二楽章でソロバイオリンの入るところを胸をときめかしつつ待っています。もちろん「ソドーシド」も大好きですよ。

第二楽章は、第一楽章のハ短調からかなり遠いホ長調です。重苦しい第一楽章の後、少しは日の光の届く第二楽章、私はこの楽章が大好きです。

アンコールはブラームスの「ハンガリー舞曲」から嬰ハ短調を一曲。

ブロムシュテットは「翁」という称号は似合わない、万年青年だと思います。

ホスピタリティー満点で終演後、オーケストラが退場してしまった後も鳴り止まない拍手に応えて舞台に出てきて挨拶していました。そのとき、ティンパニ奏者一人しか残ってない舞台で「おい、メンバーはどこへ行った?」という身振りをして観衆を笑わせていました。

外にはサインを求めるファンの長い行列ができていました。

私もお願いしたかったのですが、冷たい雨の中だったので諦めて帰りました。

ブロムシュテットの人柄がよくあらわれたコンサートでした。

とても幸せな気分で帰宅することができました。

昨日体調がすぐれずブーニンのリサイタルに行けなかったのは残念でしたが、今日のために体力を蓄えておいて良かったです。

またブロムシュテットをぜひ聴きたいです。

どうか元気で長生きしてください!>ブロムシュテットさん。

2009年11月17日火曜日

Görnes Schubert(ゲルネのシューベルト)

日本ではまだ発売されていないようですが、harmonia mundi から最近レリースされたマティアス・ゲルネのシューベルト歌曲集Vol.4にあたる"Heliopolis"をイギリスから取り寄せました。

このCDにはDVDがついていて、ゲルネとピアニスト、インゴ・メッツマッハー(Ingo Metzmacher)
による録音の様子や両者のインタヴューが収録されています。

ゲルネのリサイタル(10月10日、大阪いずみホール)には先月行ったばかりですが、このCD(+DVD)も買って良かったと思います。彼の飾らない、素朴な姿を見る思いがします。でもその素朴さは限りなく深い思考に裏打ちされていることもわかりました。

リサイタルについてはまだ感想文を書いていないのですが、一言で言うと、「女の愛と生涯」を男性が歌っても、声質さえあっていれば、別におかしくないし、けっこう聴きごたえがあると思いました。(他のシューマン歌曲については後で書くつもりです。)

「男が作詞し、男が作曲した曲を男がうたう」という観点からこの曲集と取り組んだらしいですが、ゲルネの柔らかなヴェルヴェットの手触りを感じさせるような声に「女の愛と生涯」は意外にもあっていたように思います。

リサイタルでびっくりしたのは、この人、体を上下左右ありとあらゆる方向に伸ばして歌うことでした。すでに今年5月のベルリンフィルの演奏会で「エリア」を彼が歌ったのを見ていたので予想はしていましたが、ものすごい体の動かせぶりでした。バレエよりもよく動いている?(笑)

揺れ動くというより伸縮自在の体から声が全方向に放射されるような錯覚に陥ってしまうほどでした。それほど声がよく広がるのでした。

さて、CDのほうですが、まだ全部聴いていませんが、DVDは見ました。

ゲルネの話し声は実はけっこう高くて、話し声からすると「テノール」ではないかと思えるほどなのです。でも、実際の歌ではバス・バリトンですよね?これがまた不思議。

ピアニストとの打ち合わせも「そこまでやるか!」と思うほど入念です。

DVDに収録されているのは「春の想い」("Der Frühlingsglaube")という曲なのですが、この曲、実は私が歌のレッスンを受けるようになって(といっても、まだ一年ちょっと前なんですが:-))最初に手がけたドイツ歌曲です。

「春の想い」は数ヶ月やってみましたが、結局完成させることができず、ペンディング状態になっていました。

私は、仕事に復帰して新たな曲を練習する余裕がなくなったところで、ちょうどこの曲に戻って来たばかりです。キッチンで夕食の用意をしながら、"Die lineden Lüfte sind erwacht.."と小声で歌っています。(笑)


「一筆書き」するような冒頭のメロディーラインとか、"Nun, armes Herz, sei nicht bang!"(「さあ、希望の乏しい心よ、恐れないで!」と自分の心にやさしく話しかけるようなニュアンスを表現できませんでした。

(なお、「希望の乏しい」は超意訳です、普通は「貧しい、哀れな」です。私はここを冬の間、氷や雪に閉ざされた自然同様、あわれにも、希望が乏しくなってしまったわが心」と解釈しました。「やっと春が来て万物が花開き、すべてがあらゆるところで創造をはじめる、だからおそれずに心を開いて!」と語りかけているように私は感じます。)

ゲルネは体を大きく動かしながらメロディーを作ってゆきます。こっちまで一緒に踊りながら歌いたくなるほどです。

声楽のレッスンでは、たった二つの音をつなぐだけなのになぜ何度もやり直ししなきゃいけないんだろう、なんて思うこともしばしばだったのですが、歌を完成させるというのは途方もなく難しいということを理解しました。フレーズひとつにしても何十回も練習してもうまく歌えないことがありました、いや、あります、と現在形にしておきましょう。

ゲルネの歌詞、響きに対するこだわりはDVDを見ているとよくわかります。

歌うことの難しさ、その練習の地味さを痛感させてくれるDVDでした。

しかし、この「ゲルネ踊り」、真似をし始めたらやめられません。明日DVDを見ながら一緒に体をゆすって歌ってみようっと。:-)