2014年8月28日木曜日

「最高」が重なりすぎると焦点がぼける?ー「フィエラブラス」を見て。

 今日は昼間は休養し、夜にシューベルトのオペラ(!)「フィエラブラス」を見て来ました。
 
 配役が今の声楽界で考えられる最高の人たちばかりで、いったいどんな演奏になるかワクワクしていました。ちょっと例をあげると、フランク国王はツェッペンフェルト、その娘エンマはユリア・クライター、ムーア人の国王の娘フロリンダがレッシュマン、それにフロリンダの恋人が、あのマルクス・ヴェルバ(!)、そしてあまり出番はないタイトルロールはミヒャエル・シャーデでした。

 あと騎士エギンハルト役がBenjamin Bernheim(名前からするとドイツ人にも英米人にも思われますが、フランスの出身とのことです。名前の読み方がわかりません。教えていただければ幸いです。)という顔ぶれで、脇役もメゾのシャピュイなどけっこう有名人揃いでした。初めて聴いたこのBernheimは相当の実力者のようでこのオペラのヒーローに近い役でした。

 ストーリーはかなり複雑で私も結局何がなんだかわからないところがありました。この日記の最後にストーリーの概要を記したページのURLを書いておきます。一言でいうと、キリスト教徒がイスラム教徒と戦争を重ねるが、カール王およびイスラムの国王の息子フィエラブラスのおかげで和解し、お互いに幸せになる、その際例によって例のごとくふたつのカップルが結ばれるというお話です。(ついでに書いておくと、キリスト教徒はイスラム教徒をキリスト教に改宗させることに成功するというあり得ない設定です。)

 シューベルトのこのオペラは、1980年代にクラウディオ・アバドが上演して日の目を見たらしいです。私もその画像と音声をYouTubeで発見し、この作品を実際に見る決心をしました。

 話の筋は複雑で、舞台が次々に変わるのですが、その間幕が降りて、かなり待たされました。舞台作りが相当大変そうでした。

 さて、感想ですが、まず私はこの作品をまとめあげたインゴ・メッツマッハに喝采をおくりたいです。ブラヴォー!ウィーンフィルの演奏も最高でした。それと、合唱が強力でした。その辺が昨日の「ラ・ファヴォリート」と一線を画しているところでした。

 個々の歌手について感想を述べる時間がないので簡単に書きますと、ひとつひとつのシーンが実に丁寧に作られ、歌も演技も「これこそが最高!」と思うものばかり。

 クライターの細めの清らかな声(ただ、時々硬くなりましたが)と父である国王(ツェッペンフェルト)の豊かで深い声の重なり合いも美しく、また、Bernheimの演じる騎士エギンハルトははっきり言ってタイトルロールのシャーデより良い声でした。シャーデはオペラよりリートのほうがずっと良いと思います。

 特筆に値するのは、ドロテア・レシュマンによるムーア人国王の娘(=フィエラブラスの妹)が劇的な歌唱と台詞で圧倒したこと。この人の声は強いのですがあまりキンキン硬くならないので私にも耐えられます。(私は強い声、キンキンする声は嫌いなのです。)そして、彼女の恋人ローラントを演じたヴェルバは昨年「マイスタジンガー」でベックメッサーを、一昨年「魔笛」でパパゲーノを演じた、私のお気に入りののバリトンです。今回はかっこいい役で大満足。

 書いていたらきりがないのでこの辺にしますが、最後は大団円。しかし、全体の印象というと何かはっきりしないのです。

 演劇としても音楽としてもちょっとバラバラというか、モーツアルトのオペラのような有機的つながりが感じられませんでした。それぞれのシーンはすばらしいのですが、音楽的に通奏低音になるようなテーマとか繰り返し形を変えながら出て来るモティーフがあまりないのです。

 台詞もモーツアルトなら、ドン・ジョヴァンニの台詞の多くを後で逆にレポレロが繰り返していて、ドン・ジョヴァンニとレポレロの親近性(同じ人の裏と表だという説もあります。)を感じるのですが、そういう関連性を感じませんでした。

 だから、作品としてはまずテーマがとんでもない(イスラム教徒と大団円だなんてあり得ないでしょう?)のと、全体の統一性が乏しいことからなかなか演奏されなかったのではないでしょうか?音楽的にはどのシーンも美しく、まさかシューベルトがと思うほどの劇的シーンもありました。(「魔王」のような劇的なシーン。) 

 これほど多くの最高の歌手と最高のオケと指揮者が共演(競演?)すると、意外なことに全体の印象がぼやけてしまいます。
 ひとつひとつのシーンが完成されすぎてかえって全体がぼんやりしていまうのです。タイトルロールのフィエラブラスも1幕で歌った後は最後まで出て来ませんし、場面が変わるごとに話の糸を繋いでゆくのが困難でした。

 贅沢な感想を述べさせてもらうと、「最高」が重なりすぎ、それに作品の構築性の不足が加わり、何となく焦点ぼけしたような印象があります。

 でも、どれほどひとつひとつのシーンがすばらしかったかはとても語り尽くせません。すでにmedici.tvのアーカイブにあがっていますから、どうぞご自分でご覧になってください。

 あー、楽しかった!
 
(参考)
schubertiade.info/2sakuhin/oper.html

2014年8月27日水曜日

「ラ・ファヴォリート」鑑賞

 ザルツブルクより、8月26日。

ドニゼッティの「ラ・ファヴォリート」(フランス語上演)をコンサート形式で見て来ました。
 
 メゾソプラノのエリーナ・ガランチャがお目当てで出かけました。彼女は一昨日体調不良のためリサイタルをキャンセルしたのですが、今日は頑張って熱演してくれました。美しい容姿とちょっと翳りのある美声を堪能させていただきました。
 「ラ・ファボリート」は初めて見ました。前知識全くなし。開演15分前に滑り込んで、筋書きを読んだだけでしたが、話はけっこうわかりやすかったです。このタイトル、国王の愛人、と理解していいのでしょうか?宗教界が絶対的権威を持っていた時代の話だということだけは知らないとさっぱりわからないオペラですね。
 指揮はアバド2世、いや、ロベルト・アバド、合唱はPhilharmonia Chor Wien(訳がわかりません。どなたか教えて下さい。)、オケはミュンヒェン放送交響楽団でした。
 この公演で一番の前評判だったのが、チリ出身のテノール、ファン・ディエゴ・フローレス。さっそく最初から出て来て第1幕ですぐに「ハイC」を超えるさらに高いDをたーっぷり聴かせてくれました。終幕ではハイCをいきなりフォルティッシモで絶叫(これは良かった!)しました。
 イケメンで若々しくかっこいい、声も良ければ愛想も良し、これは間違いなくモテモテ男でしょう。
 で、声なんですが、実は私は期待したほどは気に入りませんでした。第3幕、第4幕でその麗しい声と表現力を遺憾なく発揮したのですが、私の好みはこういう派手なテノールではなく、一昨日ガランチャのリサイタルの代わりに急遽行われたリートとアリアの夕べに登場したメキシコ出身のハヴィエル・カマレーナのほうです。劇場が割れるほどの大声で絶叫してもきつくならない不思議な声だからです。
 フローレスは高音域を楽々と出すのですが、時々音が硬く、いやきつくなります。その点、ヨナス・カウフマンと似ていて、私のタイプじゃありません。(いや、そんなことどうでいいですが。)
 フローレスが歌うとフランス語がどうしてもイタリア語に聴こえてしまうのです。母音がやや明るすぎるのか、あるいは鼻母音が完璧にすーっと抜けない時があるのか、何かちがうのです。歌詞を見ながら聴いてもやはりイタリア語に聴こえました。歌と会話ではフランス語の発音はずいぶん異なるのですが、それを考慮してもなおフランス語に聞こえないのです。私の耳が悪いだけ?
 アルフォンス11世を歌ったLudovic Tezier (eの上にアクサンテギューがつきます、この人の名も読み方がわかりません。姓は「テジエ」かと思います。)が歌い始めた瞬間、ぴーんと私の脳に「フランス語」がヒットしました。そう、フランス語にはこの鼻母音と、つるんとした艶(ゆで卵をむいた時の白味みたいな?)が欲しいのです。おお、最高の声!何という気持ちよい声でしょう。そして表現力もすばらしい。
 私は終始一貫してこのテジエさん(バリトン)に拍手を送り続けました。私の周囲でも、聴衆はフローレスにひときわ大きな拍手をおくっている人とテジエに喝采している人に分かれていました。
 ガランチャはよく持ち直したというか、ものすごくタフなアリアも心が溶けそうになるようなメロウな声で歌ってくれました。第3幕の独唱の続くところで少しペースダウンしたかのように思えましたが、終幕は最高でした。しかし、ガランチャのフランス語も私には100%満足とは言えませんでした。
 侍女(?)のイネスを歌ったオーストリアの歌手Eva Liebau(読み方不明)も澄んだ声で割と上手にフランス語を歌っていました。
 このオペラ、多くのオペラの例にもれず、出会って10分で恋仲になり、最後は一方が死ぬのを見とって他方も死ぬというお決まりのストーリーでしたが、何といっても音楽が良かった。
 最初の合唱は男性合唱で、何となく「しょぼい」と感じたのですが、いえ、坊さんの祈祷ですから、そんなもので良いのでしょう。ウィーンの合唱団は、バイエルン放送合唱団、ベルリン放送合唱団を何度も聴いた耳にはちょっとおとなしいように思えました。
 というわけで、昼にはお医者さんに行って点滴を打ってもらいながら夜はオペラを見るという倒錯した一日を送りました。
 最後にフローレスの紹介記事をリンクしておきます。
 
 
 

2014年8月26日火曜日

すごい闇価格のチケットも...

 昨日の話の続きですが、ガランチャのかわりに歌ってくれた歌手のひとり、フランチェスコ・メーリは隣の大劇場で「トロヴァトーレ」を歌い終えてすぐに駆けつけたそうです。すごいなぁ。ありがとう、メーリさん!
 
 昨日の公演のおかげで目下公演中の「フィエラブラス」と「チェネレントラ」の公演の登場人物を前もって聴くことができたわけで、当然のことなら両公演のチケットは売り切れたようです。街のチケット屋で「フィエラブラス」を538ユーロで提供していました。すごい闇価格!
 今日は午後9時からグスタフ・マーラー・ユーゲントオーケストラの公演で、指揮はエッシェンバッハ。ツィモン・バルトでリームの新作品の初演とブルックナーの7番です。7番は彼の交響曲の中で私の一番好きな曲。最近ラトル+ベルリンフィル、ヤンソンス+コンセルトヘボウで実演を聴いただけに、今日どういう印象を受けるか?
 今日は昼間20度まで気温が上がり、暖かかったのですが、部屋で寝てました。これから洗濯物といっしょに入浴です。このホテル、豪華客室はあるのに洗濯のサービスがないというところ。(笑)
 明日は一応内科の医者に行きます。どうにか予約を取れました。やれやれ。

2014年8月25日月曜日

ザルツブルクは魔窟!

 芸術の世界では上を見たらきりがなく、天才の上をさらにゆく天才がいるということはよくわかっていたつもりです。しかし、今日の歌曲とアリアの昨夜では、もう驚愕を通り越して、ため息をつくしかありませんでした。
 元来はラトヴィア出身のメゾソプラノ歌手、エリーナ・ガランチャが歌曲のリサイタルを催すところだったのですが、急病で降板しました。チケットが払い戻しになるのかと思ったら、今ザルツブルクに滞在している歌手さんたちにボランティアをお願いして、急遽「歌曲とアリアの花束」を催すことになりました。
 私の知っていた歌手の名前だけあげると、テノールのミヒャエル・シャーデ、フランチェスコ・メーリ、ソプラノのクラッシミーラ・ストヤーノヴァ(このアクセントが正しいようです)、メゾソプラノのマリー・クロード・シャピュイ(去年「コジ」でドラベッラを歌った人)、それに加えて昨日「薔薇の騎士」でさんざん好色で低俗な男爵を歌いきったばかりのギュンター・グロイスベックほか、ニコラ・アライモ(超絶巨漢のバリトン)や初めて名を見たJavier Camarenaというテノールが歌いました。また"Young Singers Project"という新人を(たぶん)支援するプロジェクトのメンバーの若手バリトンとメゾソプラノが加わりました。
 全部の歌手について書くと夜が明けてしまいますから、びっくりした話だけまずは書くことにします。
 今夜のコンサートはでドイツ、フランス、イタリア歌曲およびオペラの有名なアリアが取り上げられ、一晩で二晩以上の盛りだくさんでした。
 昨夜見事な元帥夫人を歌ったストヤーノヴァの歌う「オテロ」から「デズデモナ」の祈りのシーンは清冽な声と表現に胸がすっかりあつくなりました。
 シャーデの緻密なシューベルトとR.シュトラウスもすばらしかったものの、彼の高音はやや硬くて聴きづらいものがありました。
 新人のバリトンが「詩人の恋」から抜粋を歌い、暖かい拍手を浴びていました。バリトンというよりバス・バリトンの声で、低音域は非常に聴きがいがありました。将来が楽しみな歌手です。
 それからシャピュイがフォーレとサティーを歌ったのですが、その声は「クリーム色の声」と名付けたいほどなめらかで美しかったです。
 以上が前半で、すでにかなり満腹感がありました。
 しかし、本当のサプライズがあったのは後半でした。
 グロイスベックがシューベルトのハードな歌曲(「プロメトイス」、「ハーデス(冥府)への旅、「羊飼いの嘆きの歌」)を堂々と歌いました。低音の魅力あふれる、しかも大変歌詞の明瞭な歌い方でした。昨日のオクス男爵とはまるで反対の方向で、同じ人がこんなに違う演奏をできるのかと驚きました。
 その後また新人のメゾソプラノ歌手がウォルフのこれまた有名な歌曲で底力を見せつけ、大喝采を浴びていました。
 以上は「前口上」。驚きと「中毒」はその後にやって来ました。
 舞台にやけに小柄でちょっとおじさんっぽい、西田敏行をひとまわりかふたまわり小さくしたようなテノール歌手が出て来ました。私はてっきり日系人かと思いました。本当に小柄な人でした。
 が、グノーの「ロメオとジュリエット」から「太陽よのぼれ!」を歌い始めた瞬間、世界がぐるりとまわって、別世界に連れて行かれました。
 何という美しい声、何という豊かな声!聴いたことのない声でした。どんなにフォルティッシモで叫んでも、全然耳障りにならないのです!こんなテノール、初めて聴きました!たいていのテノールは声が強かったり、声が硬くて聴いていられないのですが、この人は違う!
 感動のあまり叫び出したのは私だけではありません。大喝采にブラヴォーの歓呼。
 この人の名はJavier Camarena, 今しらべたところ、ハヴィエル・カマレーナというメキシコ出身の人のようです。
 人生で初めて出会った、どれほど叫んでも美しく、胸を打たれる声です。
 この人はさらにアライモとロッシーニの二重奏を歌い、その上にトスティの歌曲を一曲歌いました。とにかくこの人は人間ではないと思えるほど凄かったです。
 あとは、アライモという巨漢がロッシーニの有名な「セヴィリアの理髪師」のアリアを歌い、これまた会場が湧きまくり、その間をぬってフランチェスコ・メーリが2曲歌いました。普通だったら、この人が今夜の最大のヒーローなんでしょうけれど、いえいえ、メキシコ人のカマレーナはまだその上を行っていました。
 とにかく、一曲たりとも退屈な曲はなく、誰ひとりとっても最高の歌手ばかりでした。
 どうやらアライモとカマレーナは今公演中である「チェネレントラ」に出演中のようです。「チェネレントラ」は学生時代に一度見て、あまりのつまらさに席を立ってしまった曰く付きのオペラ。バルトリのメゾがお目当て、そしてもし今回この曲を楽しめなければオペラをみるのをぷっつりやめようと思って最終公演のチケットを取りました。
 まだこの後興奮が待っているのかと思うと、体力を回復する必要性を強く意識してしまいました。
 なぐり書きになってしまったので、いずれ修正します。
 今夜はこれにて。興奮で眠れないかも。

追記:
この演奏会、ピアノ伴奏者がただ者ではなく、ジュリアス・ドレイクに比肩するほど最高級のマルコム・マルティノーが歌手を見事に支え、時にはオーケストラよりも激しく弾いていました。あと、アン・ベックマン、サラ・ティスマン(タイスマン、かも)も見事な伴奏ぶりでした。

2014年8月23日土曜日

都会じゃないから

 今日は咳がひどくてかなり苦しいので夕方まで部屋で休むことにしました。

 昼食をとりに同じ通りのすぐ近所のクラウン・プラザ・ホテルに出かけました。けっこう有名なレストランのあるホテルです。

 ホテルは改装され、ずいぶんきれいになったのですが、肝心のレストランが見つかりません。バーがあったのでそこできくと、「レセプションの向かって右側です」と教えてくれたので行ってみましたが、みつからず、ウロウロしていると日本人らしき女性に「こんにちは!」と声をかけられました。こういう状況では私の防衛本能が作動し、"Guten Tag!"と答えて通り過ぎました。当地で日本人あるいは日本人を求めている人と知り合いになって良い経験はあまりありません。それに風邪で体調が悪いので人と話したくなかったのです。

 結局レセプションに行ってレストランの場所をききました。そうしたら

「レストランは今やっていません。6階にできる予定です。」

「ということは今はレストランは営業してないのですか?」

「そうです。」

 仕方がないので雨の中をカフェかレストランを探して歩きました。しかし、看板はあがっているのに中は廃墟(?)だったり、あるはずの店がなかったり。これがベルリンだと半年前にあったものが同じところにある保証はありません。それほど街も店もかわります。けれど、のどかなザルツブルクではそう急速に街はかわらないと思っていました。

 カフェとアジア料理屋が並んでいたのでカフェのほうに入ったら実は両方同じ店でした。よくわからないメニューが並んでいるので一番安全そうな「鶏肉入りやきそば」を注文しました。それと「しぼりたてオレンジジュース」も。

 まず出て来たのは全然しぼりたてではない、ソーダの入ったジュースでした。それから出て来たやきそばはグルタミン酸ソーダの匂いがプンプン。店員さんにきいたら中華系のお店らしいのですが、机の上にはヤマサ醤油が置いてありました。そして割り箸には「おてもと」と日本語で書かれていました。

 やはり次は駅前のウィーン料理店に行こうと決めました。

 帰りに薬局に寄って近医を教えてもらおうとしたら、薬局には鉄格子が!土曜日の営業は12時まででした。

 東京や大阪といった都会で生活をしていると、ベルリンですら不便に思うことがあります。ましてやザルツブルクでは、生活を比較すること自身が無理です。


 



ザルツブルク便り(外国で病気になると)

 ザルツブルクに到着してから5日になりました。そのうち2日間、時差ボケと風邪で完全にダウンして寝込んでおりました。こちらの気候は乾燥していて朝夕は寒く(気温が10度前後まで下がります)、昼間に太陽が照ると30度前後まで気温があがり、びっしょり汗をかいてしまいます。

 旅先で病気になると本当に困ります。これがベルリンならすぐにお医者さんを見つけることができるのですが、何しろザルツブルク。インターネットで調べれば開業医は多数みつかるのですが、日本とは医療システムが違うのでそう簡単にふらりと診療所に行って診てもらえるわけではありません。

 去年お世話になった女医さんが良かったのでそこに電話をしてみようと思ったのですが、診療所と先生の名前がどうしても思い出せません。ということでいわゆる一般医(praktischer Arzt, allgemeiner Arzt などと呼ばれます)を紹介してもらおうと近くの薬局に行きました。

 しかし薬剤師さんは、「わかりません。インターネットで調べてください。」
今度はホテルのレセプションできいたところ、ホテルの「かかりつけ医(Hausarzt)」を紹介して下さろうとして電話を入れてくださったのですが、「夏期休暇中」のようでこれもダメ。結局「ネットで調べて電話してみてください。あと、緊急時は144に電話してください。」

 近医を見つけるのがこんなに面倒だとは思いませんでした。結局オペラに行くのを諦めて(ううう、チケット完売の公演だったので残念!)ホテルで寝ることにしました。

 咳がひどくなるようなら明日赤十字病院か大学病院に電話をして近医を紹介してもらおうと思います。しかし、医療機関は予約制ですのですぐに診てもらえるかどうかわかりません。

 外国で病気になると不安なのは言葉の問題です。私は普段から英語とドイツ語で症状を言えるように練習していますが、それは内科の疾患の場合だけで、整形外科などさっぱりわかりません。

 2年前の9月にベルリンで足を負傷した時は、ホテルのコンシエルジュがすぐに近医を紹介してくれたので即刻診療所に駆け込めましたが、困ったのは「ねん挫」ぐらいはともかく、ふくらはぎが痛い、左足の第1指−第3指の間が折れたのではないかと思うほど痛い、と言うのが限界で、それ以上は説明できませんでした。

 すぐに検査をして骨折がないことを確認した上、麻酔注射をバツン、バツンと2本打ってギプスなみの包帯を巻いていただきました。「あなたはArthroseがありますね」と言われてもArthroseが何かわからず説明を求める始末。ああ、関節症ですか。

 約1週間お世話になり、包帯をはずしてサポータを作ってもらって何とか歩けるようになりました。かかった費用は1000ユーロ以上。検査料やサポータ、靴の底敷を作ってもらってこれだけかかりました。旅行保険には入るべきだとつくづく感じました。

 夏になるとザルツブルクだけでなく、あちらこちらで音楽祭が催されますが、多くは山間部の避暑地だったり、電車もローカル線に乗らないと行けないところです。荷物を持って旅行するのが苦手で、かつ怪我や病気の多い私はとても夏の音楽祭など行けそうにないです。ザルツブルクだけは空港があるので来られたのですが、やはり病気になると大変です。

 旅先での病気には普段からまず「言語的に(少なくとも英語をしっかりと、できれば現地語も学習しておく)」、そして「経済的に(保険をかける)」備えておく必要があります。

 というわけで、せっかく夢のザルツブルクに来たのに、風邪をこじらせて寝込んでいます。明日はお目当ての「薔薇の騎士」の公演があるので何とか出かけたいと思います。



 

 

 

 

2014年8月21日木曜日

あまりの興奮に離人感をおぼえてしまいました。

Twitterからのコピーです。不明の部分を後日追記します。とりあえず今夜はこれで。


 究極の離人感、「ここはどこ?今ここにいるのは私?これは夢?」という不思議な感覚に陥ってしまいました。たねあかししましょう。ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)とグザヴィエ・メストル(ハープ)の演奏会。魂を抜かれました。昨日ブッフビンダーにはがっかりしただけに、今日は良かった!
 
 いずれ詳しく書きますが、二人が出て来た時、メルヒェンの世界から王女さまと王子さまが飛び出して来たのかと思いました。(エルトマンの時もそうでしたが)美しい!見目だけでもあまりにも美しくてもう聴く前からとろーり。最後の曲を聴くまではひたすらハープ王子に聴き入ってました。
 ハープという楽器がここまでの表現力を有しているとはどうしても信じられません。リストの作品ひとつと、スメタナの「モルダウ」をハープが独奏したのですが、もうこれは技術と音楽性の極限まで達していたと思います。正直なところ、後半の2番目のハープ独奏で終わってほしいと思ったほど。
 でも、最後にどんでん返しが。アンコール2曲目はフランス語のオペラから。よく聴く曲なのですがオペラには疎いので曲名がわかりません。(判明したら書きます。)グルベローバ以来の信じがたいようなコロラトゥーラを聴かされ、失神寸前。でも私にはちょっと強烈すぎて疲れました。ああ、今夜は眠れるかしら。
 ねぇ、私は今ザルツブルクにいるのですよね?ずっとドイツ語しゃべっていたよね?まだ離人感が抜けません。

2014年8月20日水曜日

ザルツブルクより

 突然ですが、今ザルツブルクにいます。一昨日の夕方到着し、昨日モーツアルトの「ドン・ジョヴァンニ」を見て、今日はルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェン・チクルスに行ってきました。

 以下は本日の感想です。

 ザルツブルク、実質的に2日目。ルドルフ・ブッフビンダーのベートーヴェンチクルスの6回目にドイツ人のおばちゃんと行ってきました。場所はモーツアルテウムの大ホール。といっても比較的小さな、とびっきり美しいホールです。

 演奏されたのは、有名な「悲愴」、「ワルトシュタイン」のほか小さなソナチネ、ト長調(Op. 49-2)、ソナタ11番変ロ長調Op. 22、「カッコウ」というニックネームのあるソナタ25番、ト長調(Op. 79)、それに二曲のアンコール。

 結論を先に書いてしまいます。「なぜ、ブッフビンダーはあれほど恐ろしく速いスピードで、しかも割れ鐘のようなフォルテでピアノを叩きまくったのでしょうか?一階の前から13列目にいた私はあまりにも音が大きすぎ、かつ乱暴なところがあって頭痛を起こしてしまいました。
 ブッフビンダーは30年以上前から知っていますが、昔は室内楽の上手ないいピアニストでした。今はというと、「巨匠ばり」のピアニスト。でも、本当の巨匠なら「余裕」を持ってピアノをかき鳴らすことができるはず。でも、そうじゃない。
 私は本日演奏された曲のうち変ロ長調のソナタ以外はアンコールも含めて全曲自分で弾いています。だから、ひとつひとつのフレーズ、和音の進行を知っています。知っているから不幸だったのかもしれませんが、とにもかくにも大音響で叩きまくり、異常に速いスピードで弾くのでパッセージがきれいに聴こえなかったりして何とも残念な結果になりました。祝祭大劇場で「ハンマークラヴィア・ソナタ」を弾くならまだしも、小さなモーツアルテウムのホールで、これは無茶。 
 もちろん素敵なところもあって、ソナチネやアンコールの2曲目をかるーく、ピアニッシモで終わらせたのは、いかにも「今日はこれでおしまい!」というユーモアを感じさせました。「カッコウ」ソナタは比較的穏やかに気持ちよく弾けていました。でも、ドイツの森の昼間の風景のようなこの曲、第2楽章は、ソフトペダルを踏みっぱなして弾いてほしかったなぁ。

 帰ってすぐ服用した頭痛薬が効いて来たのでそろそろ眠ることにします。今日だけは演奏がうるさくて頭がガンガンしました。
 ブッフビンダーさんのファンの方々、冷たい感想でごめんなさい。