2014年8月27日水曜日

「ラ・ファヴォリート」鑑賞

 ザルツブルクより、8月26日。

ドニゼッティの「ラ・ファヴォリート」(フランス語上演)をコンサート形式で見て来ました。
 
 メゾソプラノのエリーナ・ガランチャがお目当てで出かけました。彼女は一昨日体調不良のためリサイタルをキャンセルしたのですが、今日は頑張って熱演してくれました。美しい容姿とちょっと翳りのある美声を堪能させていただきました。
 「ラ・ファボリート」は初めて見ました。前知識全くなし。開演15分前に滑り込んで、筋書きを読んだだけでしたが、話はけっこうわかりやすかったです。このタイトル、国王の愛人、と理解していいのでしょうか?宗教界が絶対的権威を持っていた時代の話だということだけは知らないとさっぱりわからないオペラですね。
 指揮はアバド2世、いや、ロベルト・アバド、合唱はPhilharmonia Chor Wien(訳がわかりません。どなたか教えて下さい。)、オケはミュンヒェン放送交響楽団でした。
 この公演で一番の前評判だったのが、チリ出身のテノール、ファン・ディエゴ・フローレス。さっそく最初から出て来て第1幕ですぐに「ハイC」を超えるさらに高いDをたーっぷり聴かせてくれました。終幕ではハイCをいきなりフォルティッシモで絶叫(これは良かった!)しました。
 イケメンで若々しくかっこいい、声も良ければ愛想も良し、これは間違いなくモテモテ男でしょう。
 で、声なんですが、実は私は期待したほどは気に入りませんでした。第3幕、第4幕でその麗しい声と表現力を遺憾なく発揮したのですが、私の好みはこういう派手なテノールではなく、一昨日ガランチャのリサイタルの代わりに急遽行われたリートとアリアの夕べに登場したメキシコ出身のハヴィエル・カマレーナのほうです。劇場が割れるほどの大声で絶叫してもきつくならない不思議な声だからです。
 フローレスは高音域を楽々と出すのですが、時々音が硬く、いやきつくなります。その点、ヨナス・カウフマンと似ていて、私のタイプじゃありません。(いや、そんなことどうでいいですが。)
 フローレスが歌うとフランス語がどうしてもイタリア語に聴こえてしまうのです。母音がやや明るすぎるのか、あるいは鼻母音が完璧にすーっと抜けない時があるのか、何かちがうのです。歌詞を見ながら聴いてもやはりイタリア語に聴こえました。歌と会話ではフランス語の発音はずいぶん異なるのですが、それを考慮してもなおフランス語に聞こえないのです。私の耳が悪いだけ?
 アルフォンス11世を歌ったLudovic Tezier (eの上にアクサンテギューがつきます、この人の名も読み方がわかりません。姓は「テジエ」かと思います。)が歌い始めた瞬間、ぴーんと私の脳に「フランス語」がヒットしました。そう、フランス語にはこの鼻母音と、つるんとした艶(ゆで卵をむいた時の白味みたいな?)が欲しいのです。おお、最高の声!何という気持ちよい声でしょう。そして表現力もすばらしい。
 私は終始一貫してこのテジエさん(バリトン)に拍手を送り続けました。私の周囲でも、聴衆はフローレスにひときわ大きな拍手をおくっている人とテジエに喝采している人に分かれていました。
 ガランチャはよく持ち直したというか、ものすごくタフなアリアも心が溶けそうになるようなメロウな声で歌ってくれました。第3幕の独唱の続くところで少しペースダウンしたかのように思えましたが、終幕は最高でした。しかし、ガランチャのフランス語も私には100%満足とは言えませんでした。
 侍女(?)のイネスを歌ったオーストリアの歌手Eva Liebau(読み方不明)も澄んだ声で割と上手にフランス語を歌っていました。
 このオペラ、多くのオペラの例にもれず、出会って10分で恋仲になり、最後は一方が死ぬのを見とって他方も死ぬというお決まりのストーリーでしたが、何といっても音楽が良かった。
 最初の合唱は男性合唱で、何となく「しょぼい」と感じたのですが、いえ、坊さんの祈祷ですから、そんなもので良いのでしょう。ウィーンの合唱団は、バイエルン放送合唱団、ベルリン放送合唱団を何度も聴いた耳にはちょっとおとなしいように思えました。
 というわけで、昼にはお医者さんに行って点滴を打ってもらいながら夜はオペラを見るという倒錯した一日を送りました。
 最後にフローレスの紹介記事をリンクしておきます。