2013年4月4日木曜日

理解するのに30年以上かかった作品


もう30年以上も昔の話ですが、ドイツで勉強して(=遊んで)いた頃の話です。

学生寮でお茶会があっておよばれにあずかりました。招き主のヴォルフガング君が突然、

「そうだ、キョーコが来ているから今日は僕が世界一美しいと思う音楽を聴かせてあげるよ。」

と言ってレコードをかけてくれました。(何で私がいることと世界一美しい音楽をかけることが関係あるのかいまだにわからず。:-))

どんな音楽が始まるのか緊張していたら、弦のpのざわめきの上にホルンが"B-Es-B, H-Es-B,  B-Es-B"とやり始めました。(Esのところは付点音符です。)、そして次にフルートが入って来て同じことを...

もうおわかりの方も多いと思いますが、この曲です。

http://www.youtube.com/watch?v=aVfPN40nuqI

しばらく聴いていたのですが全然面白くも何ともなく、レコードのジャケットをちょいと見たら、一時間以上の大曲とわかり、うんざりしたのでした。「何でこれが世界一美しい音楽なの?」

その後どうなったか記憶にありませんが、たぶんおしゃべりに夢中になって音楽は放っておかれたと思います。

さて、30年以上の歳月が過ぎ、ふとしたことから上記のメロディーと再会しました。その時感じたのは戦慄!変ホ長調から何度か転調し、そしてffに突っ込んで怒涛のごとく主題が奏でられるところでは眩暈を感じました。

しかし、何しろ長い作品ゆえ、全曲を聴き通すことはあまりありませんでした。

はじめて実演でブルックナーの交響曲を聴いたのは2011年3月、ベルナルト・ハイティンク指揮、ベルリンフィルの公演でした。この時は5番。これがまた何とも言い難い体験でした。それ以降、ちょくちょくとミサ曲などを含めてブルックナーの作品を聴くようになりました。

転調の時に感じる空中を浮遊するような感覚とか調性が決定した時の充足感とか、なだれうつ弦の波に全身をすくわれそうな恐怖と快感の入り混じった感覚とか、今まで知らなかった感覚が私の中に開発されたような気がします。

この3月にベルリンに滞在した時は、大雪に見舞われて、あまりの寒さ(最高気温がマイナス2度、最低がマイナス13~14度という日もありました。)に体がまいってしまい、気管支炎を起こして寝込みそうになりました。

そんなある夜、ホテルの部屋でぼんやりしていたら、何とも虚しくなってきて泣きたい気分になりました。

「これは、まずい!」

と思って、iPad miniを出してきてラジオがわりに使いました。テレビの番組は面白くないのでとりあえずラジオを聴こうとしました。ちょうど ブルックナーの交響曲第7番(マリス・ヤンソンス指揮!)の放送録音がありました。

広いバスルームにiPad miniを持って行ってかけたら完全に夢中になってしまいました。バスルームだと音がよく響きますね。まさか、入浴しながらブルックナーを聴くなんて危ないことはしていませんよ。--- 気がついたら昇天していたりして。(笑)

http://www.youtube.com/watch?v=QS-54s59iDQ 

こちらは同じヤンソンス指揮のバイエルン放送響の演奏。目下amazon.co.ukにCDを注文中です。

以後この一か月近くブルックナーを聴き続けています。

ブルックナーの「ロマンティック」を「世界一美しい曲」と呼んだヴォルフガング君の気持ちがようやくわかりました。でも、今頃になって!ヴォルフガング君に「ブルックナーは気持ちいい!」って大声で伝えたい気分です。

音楽を理解できるようになるにはそれなりの準備、そして音楽的成熟が必要なんですねぇ。

それを考えると演奏家というのは大変厳しい職業だと思います。円熟の境地に達した時には肉体の力が衰えている可能性もありますから。