2014年10月11日土曜日

ゲルギーエフを聴く

 今日は風邪をひいてフラフラしながらヴァレリー・ゲルギーエフ指揮、マリインスキー歌劇場管弦楽団の大阪公演(ザ・シンフォニーホール)に行って来ました。

 まずプログラムを見て、その日本公演の強行軍ぶりに仰天。

 10月8日千葉に始まり、9日熊本、10日福岡、11日大阪、12日石川、13日(休み)、14日、15日(東京)、16日名古屋、17日東京、18日所沢というほとんど連日移動の演奏旅行。移動だけでも疲れるのに、さらに演目がロシア、ドイツ、チェコの大作がずらり。14日は「サロメ」(コンサート形式)が入ってオペラまでもあり。

 ゲルギーエフは前回の来日時にも聴きましたが、今年3月にアムステルダムでロッテルダム・フィルを振るのも聴きました。アムステルダムでは、そこまで力を入れるかと思うほどの力演。ベルリオーズの「幻想交響曲」に至っては舞台から化け物が出て来たり、私ら聴衆までが幻覚を感じてしまうのではないかと言う怪しさがありました。

 私はコンセルトヘボウの一番前の席でゲルギーさんの真下で聴いていたのですが、彼のフワー、シュー、ガー、ゴー、ギリギリ~、などという呼吸が聞こえすぎて震え上がったほどでした。

 その演奏会に比べて今日のマリインスキー歌劇場管弦楽団との演奏は、金管が過度に叫びちらさず、ややおとなしかったものの、全体としてはやはり尋常ならざるものがありました。

 前半はストラヴィンスキーの「火の鳥」(1919年版)。

直前になって招へい元から連絡があり、1919年版を演奏すると周知されました。私はバカなことに全曲版に変更されたのかとぬか喜びをしてしまいましたが、全曲だと演奏者も聴衆も後半のマーラーの交響曲5番で消耗してしまうだろうと納得しました。

 大雑把な印象としては、最近ベルリンフィル、コンセルトヘボウを何度か聴いた耳にはやや緻密さが足りないように感じられましたが、表現しようという意欲がただものではなく、ゲルギーエフもオーケストラの団員最大限に力を出したと思います。

 前半はスーハー、ギリギリ、ギャ~をほとんどやっていなかったゲルギーエフ、後半のマーラー5番で鼻息とうめき声が全開。爪楊枝片手に(笑)左手の指のひらひらも連発。見ているだけでも面白い演奏でした。第4楽章に至っては「ギギギーーーー」とゲルギーさんがやれば、コンサートマスターも椅子から腰を浮かして、「フワーーーッ」とやっていました。

 私は2列目の中央に座っていたため、弦楽器の音はダイレクトに聞こえたのに対し、金管楽器の音が頭の上をすっ飛ばして行ったような印象があり、もっと後ろの席で聴いたらどんな響きがしていたか想像できません。

 マーラーの5番の「アダージェット」は入魂の演奏で、ことに低弦の響きが異様なまで強く、深く、私は体ごともって行かれるのではないかと感じたほどです。

 管楽器では、木管は割と地味ながら良い響き、金管は予想よりもおとなしく、がなりたてなかったのが良かったと思います。マーラーの出だしも良い具合でした。ここで変な音を出されるとがっくり来ますから。ただ、金管は私の席ではよく聞こえなかった可能性があります。

 70分にわたる長いマーラーの5番、あっという間に終わってしまったという気がします。ディテールの不揃いこそあれ、ぐっと聞き手の集中力を高めてくれる演奏でした。

 なお、団員はアンコール曲の譜面を用意していたようですが、結果的にはアンコールなし。ゲルギーさん、4日連続の公演でお疲れだったのでしょうか。

 最後に老婆心ながら、この強行軍でゲルギーさんや団員さんが体調を崩されないことをお祈りいたします。そもそもゲルギーさん、働きすぎ。ヤンソンスのように突然心臓病で倒れないためにも、もう少し緩いツアーを企画してほしいと思います。

首都圏の公演、楽しみですね。きっといくつかの公演が放送されるだろうと期待しています。