2012年7月8日日曜日

実演を聴かずして演奏家を判断することは困難?


今日は梅雨の晴れ間に池田市にある逸翁美術館・マグノリアホールまで増井一友ギターソロコンサート、「スペインの夏---ラテンの風」を聴きに行ってきました。

こちらがポスター。

http://www.hankyu-bunka.or.jp/sys/topics/article/26

結論を先に言えば、「実演を聴かずして演奏者を判断することはむずかしい」と感じました。

増井さんのギター演奏はYouTubeでも拝聴して大変好ましい印象を抱いていたのですが、やはり実演は違いました!

ところで、本題からはずれますが、私は去年の夏にザルツブルクとドレスデンでモーツアルトのオペラを3つ(ダ・ポンテ三部作です)聴いて、完全にオペラの虜になってしまいました。実はそれ以前オペラは大嫌いなジャンルで、テレビやラジオで放送されていても、「うるさい、長い、大袈裟、非現実的、耐えられない!叫ぶソプラノは最悪!」と思っていたのでした。それに私は去年の秋までイタリア語が全くできませんでしたので、イタリアオペラは退屈でした。

それが実際に劇場で、超一流の演奏家によるオペラを聴いたら、その最初の日からオペラの世界に完全にはまってしまったのでした。この件はまたブログに書くことにしますが、それほど実演って面白く、正直なんですね。

増井さんの演奏も同じで、実演に触れてすっかりその魅力の虜になりました。

本日聴いた曲で私の知っていたのはあのターレガの「アルハンブラの思い出」だけでしたが、はじめて聴いた曲なのにいずれもたっぷり楽しむことができました。最初のルイジ・レニアーニの「カプリス Op.20より、No.2, 15, 9,7」ですぐにぐっと引きこまれてしまいました。あと、演奏者自身の解説も理解の助けとなりまた。

何と言ってもラテンのリズムが素晴らしかったです。譜面に書けないような一秒の何十分の一にもみたないわずかなタイミングのずれ---まさに「ゆらぎ」---の快いこと!

「アルハンブラ」での6度の(Fis-->D)の上昇時に感じる快い高揚感(ここはうまく表現できません。とにかく私には気持ちいいのです。)に酔い、トレモロの間からメロディーが浮き上がるところ、低音は太くおなかに響く音で、高音はまるで裏声のようになまめかしく、中音はトレモロに埋もれないしっかりとした響きで演奏され、演奏のきめの細かさに驚きました。

梁田貞作曲、壺井一歩編曲、「城ケ島の雨」は本日のサプライズでした。面白い編曲と演奏でオリジナル作品とはまるで違った世界を体験させていただきました。短調とも長調ともつかずふらふらする和声の中に、あの「城ケ島」のメロディーがホ短調で切れ切れに続く世界、ギターならではの音色の変化が楽しめました。しかし、あのメロディーの際立たせかたは凄かった!

ちなみに演奏者の解説によると、音楽大学の学生に「城ケ島の雨」を知っているかどうかきいたところ、一人も知らなかったそうです。そのあたり、世代間の隔絶を感じますねぇ。そういう私も実は「城ケ島」→ショパンの「24の前奏曲」の終曲のメロディーという変な連想でこの曲を覚えているだけで、歌詞を知りません。(笑)

さらにスペインものがいくつも続くのですが、私自身に全く知識がないのでここはまとめて感想を。

私はもう30年ぐらい前だと思いますが、スペインの女性ピアニスト、アリシア・デ・ラローチャを何度か実演で聴いたことがあります。

その時に受けたスペイン音楽の感銘は、今なお忘れることができません。あまりにも微妙な「ゆらぎ」なので決して真似のできないリズムの揺れ、「こぶし」を唄う時の人間の声に似た、これまた絶対にコピーできない即興性を感じて驚嘆したのでした。

スペインの音楽にはドイツの4拍子のマーチとは異なる世界があるのですね。

今日はその昔聴いたアリシア・デ・ラローチャのスペイン音楽を久しぶりに思い出すような演奏でした。

それともうひとつ、最初に書くべきだったのですが、ギターの音は同じ分散和音を弾いても弾きかたによってずいぶん表情が違いますね。明るい響きになったり、くぐもった音になったり、ためらうような控えめな音になったり、ピアノ弾きにはちょっと想像しがたい世界です。

あと、千変万化の音色も堪能しました。まるで地声と裏声の対比のような弾き分け、全く同じ高さの音を出すにも、解放弦とひとつ下の絃の高いポジションを使いわけることによって独特の「鐘の音」の効果をあげるところ(エドゥアルド・サインス・デ・ラ・マーサの「暁の鐘」)、靴を踏み鳴らすフラメンコそのもののサバテアード(レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ、「サバテアード」)など、リズムの心地よさと音色の変化が絡み合い、ピアノでは表現できない楽しさを体験できました。

誰かが話(講義?)をしていて、それに質問が出たり、ツッコミがはいる人々の話の輪(いや、もっと直截的に申しましょう。私には「講義」の様子に聞こえてしまいました。)など楽しく想像を、いや妄想をはたらかせておりました。:-)

あと、グラナドス、「ゴヤのマハ」、はたして作品は「着衣のマハ」、「裸体のマハ」(「マハ」は単なる「女性」という意味だと思います。)のいずれにインスピレーションを得てかかれたのでしょう。(そういえば、増井さん、「裸体のマハ」のことを「脱いでるマハ」なんてべたな言い方をされたので、おかしくてたまりませんでした。)

いや、本当に楽しいひとときを過ごさせていただきました。

大雑把な感想ですが、またひとつ新しい分野の音楽に開眼してしまって、はっきり言って・・・困っています。(笑)

とにかく、実演を聴くのと録音を聴くのでは体験できる世界がまるで違うということが昨年のザルツブルク、ドレスデンについで理解できた演奏会でした。