2012年5月22日火曜日

館野泉さんの新境地

クローズアップ現代「音楽にすべてをゆだねて~左手のピアニスト 舘野泉」を偶然見たのですが、大変良い番組でした。

私は北欧の音楽が好きなので館野さんの若い頃時々演奏を聴きましたが、すてきな銀髪の紳士になっておられました。

10年前65歳の時、演奏会後突然脳出血で倒れ、右手が使えなくなるという不幸に見舞われました。医師には、「もう二度とピアノを弾くことはできない。」と宣告されたそうです。どれほどショックだったことでしょう。

2年足らずでピアノに向かうことはできるようになったものの、右手は使えません。でも、左手だけの曲だけ弾いて済まそうとは思わなかったそうです。表現したいという意欲、ピアノを弾きたいという気持ちが激しくてたまらない日々を過ごされたようです。

ある時アメリカに住んでいる息子さんがフィンランドにいる館野さんのところに楽譜を持って来てくれたそうです。それはイギリスの作曲家が書いた左手だけのための作品でした。

それを見た瞬間、館野さんは大きなインスピレーションを得たのでした。

「左手だけであれ、右手と左手であれ、音楽を理解し、役者としてそれをみんなにきかせたい。」という願望に捉われ、ついに左手だけで演奏する練習を始めたそうです。左手だけで弾く技術を習得するのは簡単なことではなかったそうです。

彼は日本および海外の作曲家たちに呼びかけ、彼のために左手のための作品を作曲してもらいました。10年間で実に40曲もの曲が寄せられたそうです。

作曲家のインタビューも面白かったです。

「左手だからこそできる、独創的な境地を発見することができた。」という意味のことを語っている作曲家もおられました。

倒れてから10年、館野さんは今や左手による他に例を見ない境地に達することができたのです。

とにかく、作品の本質に迫り、見つけたものを役者として人々に見せたいという意欲ひとつで彼は頑張って来たのでした。

館野さん、本当によい笑顔を見せておられました。

話しながら、ちょっと泣きそうになるかと思うと穏やかな笑顔を見せてくれました。何だか底知れない感動をいただきました。

館野さんは復帰10周年のコンサートツァーを二年間にわたって行われるそうです。まだ完成していない作品もあるとか。(作曲家さんたち、間に合わせてあげてね。)

75歳にしてこの心意気。彼にはまだまだ新しい世界が拓けるでしょう。私もその境地をぜひ一人の聴き手としてシェアさせていただきたいです。

司会の国谷さんも、今日は芸術の番組とあって、ちょっとドレッシーな格好で出て来られました。彼女も時々言葉を失っていたようでした。